仕組みがしりたいなあ
では、今回は多重化に焦点を当てて紹介していきます。
主要な各方式の仕組みだけでなく、最後には1G~5Gまでの多重化方式の変化も解説するので最後までお楽しみください。
多重化(マルチプレキシング)とは
まずは多重化とは何かざっくりと説明します。
多重化とは、複数の信号を同時に送ることをいいます。
多重化にも2種類に分かれていて以下のような呼び分けがされています。
- 多重伝送
- 多重アクセス
多重伝送
多重伝送とは、1つデバイスから多数のデバイスに送信することをいいます。
つまり、1→多の通信です。
具体的にいうと、多重伝送が行われる場面は、基地局から携帯電話への通信です。
1つの基地局には、複数の携帯電話が接続されていることが多いです。
そのため、1つの基地局から複数の携帯電話にデータを送る必要があります。
このような1対多の通信で利用されるのが多重伝送です。
1つのアンテナから複数のデバイスに向けて電波を送るときに多重伝送が行われます。
多重アクセス
多重アクセスとは、多数のデバイスから1つのデバイスに送信することをいいます。
ひとことでいうとしたら、多→1の通信ですね。
つまり、多重伝送と多重アクセスの違いは、1→多か多→1ということになります。
多重アクセスが利用される場面は、多重伝送とは逆で、携帯電話から基地局への通信です。
このように、複数のアンテナから1つのアンテナに集中アクセスすることを多重アクセスといいます。
多重アクセス:多→1への通信
無線通信の多重化の方式と原理
それでは、無線通信の多重化方式とその原理を紹介していきます。
先ほどは、多重伝送と多重アクセスの2種類に分けましたが、
以下では多重化という1つのくくりで解説していきます。
厳密には方式が同じでも、多重伝送と多重アクセスでは原理が少し違います。
しかし、大まかな考え方は同じなので、イメージを掴むにはむしろこの方がわかりやすいです。
ですので、多重化というくくりで以下の5つの多重方式を紹介していきます。
- FDM(周波数分割多重)
- TDM(時分割多重)
- CDM(符号分割多重)
- OFDMA(直交周波数分割多重)
- NOMA(非直交多重)
FDM|周波数分割多重

まずは、FDM(周波数分割多重/Frequency Division Multiplexing)についてです。
FDMとは、「チャネル」と呼ばれる特定の周波数の道をそれぞれ作ることで複数の通信を同時に可能にするという多重化方式です。
図1のように特定の周波数ごとにチャネルを設けることで多くの電波を同時に送れるようにします。
通信で電波を使用する際に、異なる周波数であれば、同時に電波を送ったとしてもそれぞれで認識することができるという性質があります。(フーリエ変換と呼ばれています。)
この電波の周波数の性質を生かして多重化するのがFDMです。
FDMはアナログ通信を行う際に広く利用されています。
例えば、ラジオやテレビです。
ラジオとテレビにもチャネルという言葉があります。
このチャネルというのはFDMのチャネルに由来します。
ラジオやテレビが同時に信号を送ることができるのは、周波数ごとに各局がチャネルを持つからになります。
ということで、1つ目は周波数ごとにチャネルを設けて複数の同時通信を可能にするFDMでした。
TDM|時分割多重

2つ目に紹介するのはTDM(時分割多重/Time Division Multiplexing)です。
FDMとは異なり、時間軸を利用して分割することで、多重化をする方式です。
このTDMでもFDMのチャネルの概念を利用します。
しかし、違いはそれを同時に送り続けるのではなく、時間ごとにチャネルを割り振るという点です。
ここで、どうしてわざわざ周波数に分けてるのに時間でも分けるの?と疑問を持つ方が多いのかと思います。
ここを理解するには、デジタル通信の概念がカギになってきます。
デジタル通信とは、簡単にいうとデータを0と1で表現して行う通信のことです。
このデジタル化をする過程で、連続するデジタル信号同士に一定間隔の時間が生まれます。
この信号間の空白の時間を活用するのに効果的なのが時分割多重です。
図2のように信号の間隔を他のチャネルの信号で埋め合わせることで効率よく通信することができます。
ここで、信号に時間差が生まれてもスムーズな通信ができるの?
という疑問が出て来ると思います。
しかし、問題はありません。
信号間の時間は非常に短いので、問題なくスムーズな通信が可能になります。
ということで、時間を分割して多くの電波を効率よく多重化伝送できるTDMでした。
CDM|符号分割多重

3つ目は、CDM(符号分割多重/Code Division Multiplexing)です。
CDMとは、信号に符号を付けて識別できるようにする多重化方式です。
FDMやTDMでは限られた領域に信号を詰め込むといった感じでしたが、
CDMでは名前をつけて見分けられるようにするといったイメージです。
このCDMは理解しようとすると難しいので、上の図3でざっくりとしたイメージを掴んでおけば大丈夫です。
CDMでは、信号を詰め込むどころか混ぜ込んで雑音のようにして伝送してしまいます。
そうすることで、1チャンネル当たりの周波数帯域が広くても多重化による高速通信が可能になります。
CDMのメリットは以下の2つです。
- ノイズに強くなる
- 情報が傍受されにくくなる
従来のFDMのように周波数を多重化する際の問題では特定の周波数にノイズがある場合、その周波数が割り当てられたチャネルを使用することができないというものがありました。
しかし、CDMでは広い周波数帯域で1つのチャンネルなので、ノイズがあったとしても大した問題ではなくなります。
また、電波を雑音のように混ぜ込んで多重化するので、外部から情報を傍受されにくくなります。
外部から見たときに、信号を復元することが難しいためです。
このように、CDMとは各信号に符号を付けることで多重化する方式で、
ノイズに強く秘匿性の高い通信を行うことができる多重化方式です。
OFDM|直交周波数分割多重

4つ目に紹介するのは、OFDM(直交周波数分割多重/Orthogonal Frequency Division Multiplexing)です。
簡単に言えば、1つ目に紹介したFDM(周波数分割多重)の進化版です。
では、図4でOFDMについて簡単に図解していきます。
図を見る際の注意としては、FDM、OFDMともに横軸が周波数となっていることです。
従来のFDMであれば電波間の干渉を防ぐために使用するチャネル周波数の間にガードバンドと呼ばれる使用しない周波数帯域を設けていました。
すなわち、ガードバンドによって、データの直交性、すなわち電波の非干渉を保っていました。
その一方で、使用しない周波数帯域ができるということは周波数の利用効率が落ちてしまうという問題がありました。
この問題を解決するのが、OFDMです。
Sinc関数の性質を用いて、電波間の干渉を抑え、かつ周波数を効率よく利用することができます。
Sinc関数とは、Sin(x)関数をxで割ることで得られる関数です。
数式で書くと、sinc(x)=sin(x)/x となります。
図4の左図のような中央が最大値をとり、それ以降は周期的に減衰していく性質を持ちます。
難しいと思うので、「こんな関数があるだ~」程度の認識で構いません。
OFDMではこのSinc関数の周期性を利用して、うまく重ね合わせることで周波数の干渉を防ぐことができます。
こうすることで、図のようにプラスとマイナスを打ち消し合われて、最大値のみを取り出すことができるのです。
繰り返しますが、OFDMは難しいので理解できなくても大丈夫です。
OFDMAとは、FDMを進化させて周波数の利用効率が上げた多重化方式とだけ覚えておきましょう。
NOM|非直交多重

最後にNOM(非直行多重)について紹介します。
OFDMなどとは異なり、データの直交(電波を干渉させないこと)をさせないで多重化します。
そのため、OFDMなどと組み合わせて、使用されることが現在検討されています。
そうはいってもイメージが湧かないと思うので、OFDMと電力によるNOMの組み合わせの例を用いて解説していきます。
図5をご覧ください。左図にOFDM、右に電力によるNOMを組み合わせた例をまとめました。
左図のOFDMでは周波数の分割のみなので、この例では3つの信号しか伝送できませんでした。
一方で、NOMを利用した右の図では電力での分割が行われるのでこの例では各チャネルに2通りの伝送路を作ることができます。
つまり、NOMを利用することで、OFDMのみの場合の2倍の伝送が可能になるのです。
しかし、どのようにして干渉した状態の情報を分割するのでしょうか?
結論から言うと、受信側による制御です。
受信したデバイスで信号処理を行い信号を分離して受信した信号を復調します。
長くなったのでまとめると、NOMとは信号処理によってデータを直交させないで多重化をする方式です。
OFDMのようなデータの直交性を保ちながら多重化する方式と組み合わせて使用されます。
・TDM:時間で多重化
・CDM:符号を付与して多重化
・OFDMA:FDMよりも効率よく多重化
・NOMA:電力軸で多重化
通信世代(1G~5G)と多重化方式の変化
では、通信世代はそれぞれどの多重化方式を利用してきたのでしょうか?
1Gから5Gまでの変化を先ほどの知識を踏まえて解説していきます。
結論から言うと、以下のように多重化方式は変化してきました。
- 1G通信:FDM
- 2G通信:TDM
- 3G通信:CDM
- 4G通信:OFDM
- 5G通信:NOM
補足:各通信世代で1つの多重化方式が使われたのではなく、組み合わせで利用されています。
つまり、上記の箇条書きの意味はその時期から使われるようになったということを表します。
例)4GからOFDM開始/5Gでも継続して使用
1G通信|FDM
1G通信ではFDM(周波数分割多重)が使用されています。
最初の無線通信ではFDMが多重化方式として採用されました。
1G通信のポイントはアナログ通信です。
先ほども紹介しましたが、FDMはアナログ通信で広く活用されている多重化技術です。
そのため、FDMが1G通信の多重化方式として活用されていました。
2G通信|TDM
2G通信では、TDM(時分割多重)が使用されています。
デジタル通信への移行に応じて多重化方式も変化したからです。
このTDMへの変化を通じて、デジタル通信であっても多重化を行うことができるようになりました。
3G通信|CDM
3G通信では、CDM(符号分割多重)が使用されるようになりました。
通信容量への需要が高まったためです。
デジタル通信へ応じて2G通信ではTDMが使用されるようになりました。
もちろん、TDMでもデジタル通信が行えるのですが、通信容量の面で課題がありました。
このデータ通信量への需要を解決するために3GではCDMが採用されました。
CDMの採用によってより効率よく多重化することで、
ニーズが高まり始めたデータ通信量への需要に答えることができるようになりました。
4G通信|OFDM
4G通信に移行すると、OFDMが使用されるようになりました。
通信容量の増加がより高まり、周波数効率の良い通信が求められるようになったためです。
4Gに入る頃には、通信用容量が増える一方で、無線通信で使用できる周波数帯域が限られているという問題がありました。
それにもかかわらず、画像だけでなく動画などの重いデータを通信するようになった4G通信では通信使用量は飛躍的に上昇しました。
その一方で使用していた周波数帯域は800MHz~2GHz(ざっくり)で変化していませんでした。
そのため、周波数当たりの効率を上げることができるOFDMが注目を集めるようになりました。
ガードバンドを設ける必要がなくなるので、より多くのチャネル数を確保できたからです。
このようにして、4G通信からはOFDMが使用されるようになりました。
5G通信|NOM
では、5G通信の多重化技術を覗いてみましょう。
結論から言うと、5G通信からはNOM(非直交多重)の使用がされます。
つまり、これからは周波数、時間の2次元での分割が行われていましたが、
NOMAによって周波数、時間、電力の3次元的な分割が行われるようになるのです。
実は、NOMの考え方は前からありました。
しかし、デバイスによる信号処理が難しく実現には至っていませんでした。
様々な技術の発展によって、デバイスでNOMの処理が行えるようになったので、実用化できるようになりました。
とは言っても、全てにNOMが利用されるというわけではありません。
必要に応じて、複数の周波数帯域で使用するということになります。
つまり、5GからはNOMが多重化方式として加わり、既存の多重化方式と組み合わせてより高速な通信が可能になります。
・2G~:TDM
・3G~:CDM
・4G~:OFDMA
・5G~:NOMA
まとめ|多重化とは?
今回は、無線通信の多重化方式について解説しました。
まとめると以下の通りです。
- FDM:周波数で多重化(1G~)
- TDM:時間軸で多重化(2G~)
- CDM:符号を付与して多重化(3G~)
- OFDMA:FDMよりも効率よく多重化(4G~)
- NOMA:電力軸で多重化(5G~)
いかがだったでしょうか?
わからなかったことなどがあればご気軽にコメントください。
「参考になった」というコメントだけでも力になります。
では、次の記事でお会いしましょう。
この記事を読んだ人におすすめ:
~この記事で解決すること~ 通信のときにどうやってデータを送るのかなあ?電波にデータを乗せる仕組みを知りたい。 変調のことですね!今回は通信の基本である変調について初心者にもわかり[…]
5G通信って最近どんどん広がっているけど、よくわからないなぁ…4Gとの違いとか、詳しい原理とか、5G対応のスマホを買うべきとか、今後の展望とか、、、 盛り沢山ですね笑今回はそんな[…]